「キャンティ」と聞くと、鮮やかな緑色が印象的な「バジリコ」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。1960年の創業以来、多くの著名人や美食家たちを虜にしてきたこの一皿は、単なるパスタという言葉では片付けられません。 そこには、キャンティが歩んできた歴史と譲れないこだわり、そして門外不出とされた秘伝の味が凝縮されています。
この記事では、そんなキャンティのバジリコスパゲッティが持つ唯一無二の魅力に迫ります。なぜこれほどまでに多くの人々を惹きつけてやまないのか、その秘密を一つひとつ紐解きながら、ご家庭でその味を再現するためのレシピまで、余すところなくご紹介します。この記事を読み終える頃には、あなたもきっとキャンティのバジリコの奥深い世界の虜になっていることでしょう。
キャンティの代名詞!人々を魅了するバジリコスパゲッティとは?
多くの食通をうならせるイタリアンの名店「キャンティ」。その中でも、看板メニューとして長年愛され続けているのが、鮮やかな緑色のソースが特徴的な「スパゲッティ・バジリコ」です。ここでは、その歴史的背景や、一般的なバジルソースとの違いなど、基本的な情報から解説していきます。
多くの著名人に愛された伝説のイタリアン「キャンティ」
「キャンティ」は、1960年に東京の飯倉片町にオープンした、日本のイタリア料理店の草分け的存在です。 創業者の川添浩史・梶子夫妻が、「日本にはまだ本格的なイタリアンレストランがないから、自分たちでつくってしまおう」という想いから始めたこの店は、瞬く間に文化人や芸能人、ファッション業界の最先端をいく人々が集うサロンのような場所となりました。
当時の日本には珍しく深夜まで営業していたこともあり、三島由紀夫や黒澤明、加賀まりこ、ザ・スパイダースといった錚々たる顔ぶれが夜な夜な集い、食事と会話を楽しんだと言われています。 彼らは「キャンティ族」とも呼ばれ、60年代の文化を牽引する存在でした。 このように、キャンティは単に食事を提供する場所ではなく、新しい文化が生まれる発信地としての役割も担っていたのです。そんな華やかな歴史の中で、多くのスターたちに愛され、店の象徴となったメニューが「スパゲッティ・バジリコ」でした。
見た目も鮮やかな緑のソースの正体
キャンティのバジリコと聞いて、まず驚かされるのがその色鮮やかな緑色です。この美しい緑色の正体は、実はバジルだけではありません。本家のレシピでは、たっぷりのパセリと大葉が使われています。
バジリコという名前から、当然バジルが主役だと思われがちですが、このパスタが生まれた当時は、まだ日本では生のバジルが一般的ではありませんでした。 そこで、創業者夫人の梶子氏が、日本の家庭でも手に入りやすいパセリや大葉を使って、友人をもてなす家庭料理として考案したのが始まりだとされています。 パセリのほろ苦さと大葉の爽やかな香りが絶妙に組み合わさり、そこにニンニクやバターの風味が加わることで、他に類を見ない独創的な味わいが生まれるのです。 まさに、日本の食材とイタリア料理の調理法が見事に融合した、キャンティならではのオリジナルメニューと言えるでしょう。
一般的なジェノベーゼとの違いは?
緑色のパスタソースと聞くと、松の実やチーズ、ニンニクなどをバジルと一緒にペースト状にした「ジェノベーゼ」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、キャンティのバジリコは、このジェノベーゼとは全く異なるものです。
最大の違いは、その主な材料と作り方にあります。ジェノベーゼが、その名の通りイタリアのジェノバ地方発祥の伝統的なソースで、生のバジルをふんだんに使うのが特徴です。 一方のキャンティのバジリコは、前述の通り、パセリと大葉が主役です。 また、ジェノベーゼが松の実やパルミジャーノ・レッジャーノといったチーズを加えて濃厚なペーストにするのに対し、キャンティのバジリコは、刻んだハーブをバターやオリーブオイル、パスタの茹で汁と合わせて乳化させることで、より軽やかでサラッとしたソースに仕上げます。
つまり、見た目は似ていても、そのルーツも味わいも全くの別物なのです。 ジェノベーゼがバジルの香りをダイレクトに楽しむ濃厚なソースだとすれば、キャンティのバジリコは、複数のハーブが織りなす複雑で爽やかな香りと、バターのコクが後を引く、独創的な一皿と言えます。
なぜ美味しい?キャンティのバジリコソースの秘密
キャンティのバジリコが、なぜこれほどまでに人々を惹きつけ、長年にわたって愛され続けているのでしょうか。その美味しさの背景には、門外不出とされたレシピに込められたこだわり、厳選された食材、そして創業以来変わらぬ製法がありました。ここでは、その美味しさの秘密を深く探っていきます。
門外不出!秘伝のレシピとそのこだわり
キャンティのバジリコは、創業者の川添梶子夫人が家庭で友人をもてなすために考案した、愛情のこもった一皿が原点です。 当初は常連客への裏メニュー的な存在でしたが、そのあまりの美味しさに評判が広まり、やがて店の看板メニューへと定着していきました。そのレシピは長らく門外不出とされ、多くの食通たちの間で「あの味はどうやって作っているのだろう」と様々な憶測を呼びました。
そのこだわりの一つが、ハーブの使い方です。パセリと大葉を主役に、乾燥バジルで香りの奥行きを出すという絶妙なバランスは、試行錯誤の末にたどり着いた黄金比なのでしょう。 また、ニンニクの火の入れ方や、パスタの茹で汁を加えてソースを乳化させる工程など、シンプルな料理だからこそ、一つひとつの手順に細やかな配慮がなされています。 この丁寧な仕事が、家庭料理からプロの逸品へと昇華させた大きな要因と言えるでしょう。
味の決め手となる特別な食材
キャンティのバジリコの味を構成する要素は、一見すると特別なものは少ないように感じられます。パセリ、大葉、ニンニク、バター、オリーブオイルなど、比較的手に入りやすい食材が中心です。 しかし、そのシンプルさゆえに、一つひとつの食材の質が味に大きく影響します。
特に味の決め手となっているのが、ハーブの鮮度と、全体の味をまろやかにまとめるバターの存在です。 爽やかでありながらもどこか懐かしい味わいは、たっぷりのハーブと風味豊かなバターが織りなすハーモニーによるもの。また、再現レシピの中には、味に深みを加えるためにホタテ出汁の素や白だしといった和の旨味成分を加える工夫も見られます。 これらは公式のレシピではありませんが、本家の味が持つ奥深さを再現しようとする試みの一つであり、和洋の食材が見事に融合しているキャンティのバジリコならではの発想と言えるかもしれません。
創業から受け継がれる伝統の製法
キャンティのバジリコの製法は、創業以来、基本的な部分は変わらずに受け継がれています。それは、注文が入ってからハーブを刻み、ソースを作り始めるというフレッシュさを何よりも大切にするスタイルです。
まず、たっぷりのパセリと大葉を丁寧にみじん切りにします。 フライパンではニンニクをオリーブオイルでじっくりと炒めて香りを引き出し、そこへパスタの茹で汁を加えてオイルと水分を一体化させる「乳化」という工程を行います。 この乳化が、ソースがパスタによく絡むための重要なポイントです。そして、茹で上がったパスタをフライパンに加え、火を止めてから刻んだハーブとバターを投入し、素早く混ぜ合わせます。 予熱でハーブに火を通すことで、鮮やかな色と香りを損なうことなく、バターのコクと風味を全体に行き渡らせることができるのです。この一連の流れを、熟練の料理人が手際よく行うことで、あの伝説の味が完成します。
自宅で挑戦!キャンティ風バジリコスパゲッティ再現レシピ
多くの人を魅了するキャンティのバジリコ。その味を家庭でも楽しみたいと思う方も多いはずです。ここでは、いくつかの公開されているレシピを参考に、ご家庭で挑戦しやすい再現レシピをご紹介します。ポイントを押さえれば、本家の雰囲気を味わうことができます。
用意する材料リスト
まずは材料を揃えましょう。ここでは基本的な1人前の分量をご紹介します。
・スパゲッティ:100g(1.8mm程度の少し太めのものがおすすめです)
・パセリ:15g(約1束の半分程度)
・大葉:10枚
・ニンニク:1~2片
・バター:10g~20g
・オリーブオイル:大さじ2~3
・乾燥バジル:少々
・塩、こしょう:適量
・(お好みで)白だしや顆粒だし:小さじ1程度
パセリと大葉は、鮮度の良いものをたっぷりと用意するのが美味しく作るための最初のステップです。バターは有塩でも無塩でも構いませんが、有塩を使う場合は塩加減を調整してください。
美味しく作るための調理のポイント
調理工程はシンプルですが、いくつかのポイントを押さえることで格段に美味しくなります。
1. 下ごしらえを丁寧に行う
パセリと大葉はよく洗い、水気をしっかりと拭き取ってから、できるだけ細かくみじん切りにします。 ここで水分が残っていると、味が水っぽくなる原因になります。ニンニクも同様にみじん切りにしましょう。
2. パスタの茹で汁は塩分を効かせる
パスタを茹でるお湯には、しっかりと塩を加えましょう。目安は、お吸い物として飲むと少ししょっぱいと感じるくらいです。 パスタ自体に下味をつけるとともに、この茹で汁がソースの味のベースにもなります。
3. ニンニクの香りをじっくり引き出す
フライパンにオリーブオイルとニンニクを入れ、弱火~中火でじっくりと加熱します。 焦がさないように注意しながら、ニンニクの香りをオイルにしっかりと移すのが重要です。
4. ソースの乳化
ニンニクの香りが立ったら、パスタの茹で汁をお玉1杯分ほど加えます。 フライパンを揺すりながら、オイルと茹で汁が白っぽく混ざり合う「乳化」を促します。これがソースとパスタを一体化させる秘訣です。
本家の味に近づけるための裏ワザ
さらに本家の味に近づけるための、ちょっとした裏ワザをご紹介します。
まず、ハーブとバターは必ず火を止めてから加えること。 強い熱を加えると、ハーブの繊細な香りが飛んでしまい、色も黒ずんでしまいます。フライパンの余熱でバターを溶かしながら、手早くパスタと和えるのがポイントです。
次に、旨味の追加です。再現レシピでは、隠し味として白だしや顆粒のホタテだし、味の素などを加えるものが多く見られます。 これにより、家庭でもプロのような味の深みと奥行きを出すことができます。ほんの少し加えるだけで味がまとまりやすくなるので、ぜひ試してみてください。
最後に、スパゲッティの太さです。ソースが比較的サラッとしているため、少し太めの1.8mm前後のスパゲッティを使うと、ソースがよく絡み、食べ応えも出て本家の雰囲気に近づきます。 ぜひ、ご家庭で伝説の味の再現に挑戦してみてください。
バジリコだけじゃない!キャンティの名物メニュー
キャンティの魅力は、看板メニューの「バジリコ」だけにとどまりません。創業以来、食通たちを唸らせてきた独創的で美味しいメニューが数多く存在します。ここでは、バジリコと並んで人気の高い名物メニューと、多くのファンを持つ自家製ドレッシングについてご紹介します。
真夜中のスパゲッティ
「真夜中のスパゲッティ」は、バジリコと人気を二分する、もうひとつの看板パスタです。 その名の通り、夜遅くに訪れる客のために考案されたと言われています。少し辛めのガーリックトマトスープ仕立てのスパゲッティで、食欲をそそる香りとピリッとした刺激が特徴です。
たっぷりのニンニクと唐辛子を効かせたトマトソースは、見た目以上にさっぱりとしていて、飲んだ後の締めの一皿としても、お腹が空いた深夜の食事としても絶妙なバランスを保っています。スープパスタのようなスタイルで提供されるため、ソースの最後の一滴までパンにつけて味わいたくなる美味しさです。バジリコの爽やかさとは対照的な、情熱的でパンチの効いた味わいは、一度食べるとやみつきになること間違いありません。
ギリシャのスパゲッティ
「ギリシャのスパゲッティ」も、古くからの常連に愛され続ける隠れた人気メニューです。こちらは、アサリやエビなどの魚介の旨味がたっぷりと溶け込んだ、塩味ベースのスパゲッティです。
特徴的なのは、その調理法と味わいです。魚介の出汁をベースにしたシンプルな味付けながら、チーズがたっぷりと使われており、濃厚なコクと塩気のバランスが絶妙です。一見するとシンプルなボンゴレビアンコにも見えますが、チーズの風味が加わることで、よりリッチで複雑な味わいに仕上がっています。魚介好き、チーズ好きにはたまらない一皿で、白ワインとの相性も抜群です。バジリコや真夜中のスパゲッティとはまた違った、地中海の風を感じさせるような爽やかで奥深い味わいが魅力です。
絶品!自家製ドレッシングの魅力
キャンティを語る上で絶対に外せないのが、サラダに使われている自家製のドレッシングです。 このドレッシングを目当てに来店するファンも多いと言われるほど、主役級の存在感を放っています。
一見すると普通のにんじんドレッシングのようですが、その味わいは唯一無二。野菜や果物をじっくり煮詰めて作られており、醤油ベースにゴマの風味、そしてニンニクやアンチョビなどが複雑に絡み合った、濃厚でクリーミーな味わいが特徴です。 サラダはもちろん、肉料理や魚料理のソースとして、あるいはパンにつけても美味しくいただけます。この万能ドレッシングは、多くのファンからの熱い要望に応え、現在ではオンラインショップや店頭で購入することも可能です。 ご家庭でもキャンティの味を楽しめる、お土産としても大変人気の高い逸品です。
キャンティの店舗情報とバジリコを味わう方法
伝説のバジリコを実際に味わってみたい、そう思った方も多いのではないでしょうか。ここでは、キャンティの本店情報から、全国に広がる系列店、そして自宅で楽しむための通販情報まで、キャンティの味に出会うための具体的な方法をご紹介します。
飯倉片町本店と歴史
すべての伝説が始まった場所が、東京・飯倉片町にある「キャンティ 飯倉片町本店」です。 1960年の創業以来、同じ場所で歴史を刻み続けています。 地下1階がメインダイニングのレストラン、1階が気軽に利用できるカフェ「アル・カフェ」となっており、長年通い続ける常連客で今も賑わいを見せています。
創業当時の面影を残すクラシックで落ち着いた雰囲気の店内は、まるでタイムスリップしたかのような感覚を覚えます。ワゴンで運ばれてくる前菜やデザートを選べるのも、本店ならではの楽しみの一つです。 多くの文化人たちが愛した空間で、元祖の「スパゲッティ・バジリコ」を味わう体験は、他では得られない特別なものになるでしょう。訪れる際は、予約をすることをおすすめします。
全国の系列店の紹介
飯倉片町本店の味と精神を受け継ぐ「イル・キャンティ」は、のれん分けという形で全国に店舗を展開しています。 笹塚にある本店をはじめ、東京、埼玉、神奈川、さらには北海道や京都、金沢など、各地でその味を楽しむことができます。
これらの系列店は、それぞれに地域性や個性を持ちながらも、名物の「スパゲッティ・バジリコ」や「真夜中のスパゲッティ」、そしてあの絶品ドレッシングを使った「カリブサラダ」などを共通して提供しています。 「本格的なイタリアンを気軽に楽しんでほしい」という想いのもと、活気あふれる雰囲気の店舗が多く、家族連れや友人同士の食事にもぴったりです。お近くの店舗を探して、まずは気軽にキャンティの世界に触れてみるのも良いでしょう。
通販で楽しむキャンティの味
「お店まで行くのは難しいけれど、あの味を家で楽しみたい」という方のために、キャンティではオンラインショップも充実しています。 特に人気なのが、店舗のサラダで提供されている自家製ドレッシングです。 このドレッシングが一本あれば、自宅のサラダが格段に美味しくなること間違いなしです。
また、ドレッシングだけでなく、パスタソースやオリジナルの焼き菓子なども販売されています。 例えば、イカスミのパスタソースなど、レストランの味を手軽に再現できる商品も揃っています。ギフトボックスの用意もあるため、お世話になった方への贈り物としても喜ばれるでしょう。 伝説のレストランの味を、ぜひご自宅の食卓でもお楽しみください。
まとめ:キャンティのバジリコを深く知って、もっと楽しもう
イタリアンレストラン「キャンティ」の代名詞ともいえる「バジリコ」。その鮮やかな緑色のソースは、実はバジルではなく、パセリと大葉を主役に、日本の食文化に合わせて生み出された独創的な一皿です。 1960年の創業以来、多くの文化人や著名人を魅了してきたその味は、単なるパスタではなく、キャンティの歴史そのものを物語っています。
一般的なジェノベーゼとは異なり、バターと茹で汁で仕上げる軽やかでコクのあるソースが特徴で、そのレシピは長らく門外不出とされてきました。 今では飯倉片町の本店だけでなく、全国の系列店でその味を体験できるほか、名物のドレッシングは通販でも手に入れることが可能です。 この記事でご紹介した歴史や味の秘密、再現レシピなどを通して、キャンティのバジリコの奥深い世界を、ぜひご自身で味わってみてください。
コメント