ビーゴリというパスタをご存知でしょうか?日本ではまだあまり馴染みがないかもしれませんが、イタリア北東部のヴェネト州で古くから愛されている、とても魅力的なパスタです。 見た目は太めのスパゲッティのようですが、その食感や歴史、使われる道具など、知れば知るほど奥深い世界が広がっています。
この記事では、ビーゴリがどのようなパスタなのか、その特徴から歴史、美味しい食べ方、そして家庭で楽しむためのレシピまで、あらゆる情報をわかりやすくご紹介します。もちもちとした独特の食感と、ソースがよく絡むザラザラの表面が特徴のビーゴリ。 この記事を読めば、あなたもきっとビーゴリの虜になるはずです。さあ、一緒にビーゴリの魅力的な世界を探求していきましょう。
ビーゴリとは?その特徴と歴史に迫る
まずは、ビーゴリがどのようなパスタなのか、基本的な情報から見ていきましょう。発祥の地や名前の由来、そして伝統的な製法を知ることで、ビーゴリへの理解がより一層深まります。
発祥地ヴェネト州とビーゴリの誕生
ビーゴリは、水の都ヴェネツィアを州都に持つ、イタリア北東部のヴェネト州で生まれました。 その歴史は古く、1600年頃から作られていたと伝えられています。 1604年には、パドヴァのパスタ職人が生地を押し出して作る機械の特許を取得したという記録も残っており、これがビーゴリの原型になったと考えられています。
元々は、農家の家庭料理として親しまれ、祭りや特別な日に食べられるごちそうでした。 当初は小麦粉と水、塩だけで作られていましたが、時代ととも卵などが加えられるようになり、より豊かな味わいへと変化していきました。
「ビーゴラレ」が語源?名前の由来
「ビーゴリ」という名前の由来には諸説ありますが、ヴェネト地方の方言でミミズや小さな虫を意味する「bigàt」から来ているという説が有力です。 これは、専用の機械から押し出されてくる様子が、それに似ていたことから名付けられたと言われています。 なんともユニークな由来ですが、それだけ地域に根ざした素朴なパスタであったことがうかがえます。
伝統的な製法と道具「トルキオ」
ビーゴリ作りで欠かせないのが、「トルキオ」または「ビゴラーロ」と呼ばれる専用の押し出し式製麺機です。 「トルキオ」とはイタリア語で「圧縮」を意味し、その名の通り、練り上げたパスタ生地をこの器具に入れ、ハンドルを回して強い圧力をかけることで、太い麺を押し出して作ります。
このトルキオを使う製法が、ビーゴリの最大の特徴であるザラザラとした表面を生み出します。 ブロンズ製のダイス(口金)を生地が通過する際の摩擦によって、麺の表面に細かい凹凸ができ、これがソースとよく絡む秘訣となるのです。 この作業はかなりの力仕事を要するため、昔はお祭りの際などに男性が力を込めて作る光景が見られたそうです。
ビーゴリの魅力はその独特の食感と形状
ビーゴリの魅力は、なんといってもその独特の食感と形状にあります。ここでは、他のパスタとの違いや、あの食感が生まれる秘密について詳しく解説します。
スパゲッティとの違いは太さと表面
ビーゴリは、直径が2〜3mmほどの太いロングパスタです。 スパゲッティよりも太く、中心に穴が開いているブカティーニとは異なります。 最も大きな違いは、その表面の状態です。工業的に作られる多くのスパゲッティがつるつるしているのに対し、伝統的な製法で作られるビーゴリは、表面がザラザラとしています。
このザラザラした表面が、まるでマジックテープのようにソースをしっかりと掴んでくれるため、濃厚なソースとの相性が抜群なのです。 一口食べれば、パスタとソースが一体となった豊かな味わいが口いっぱいに広がります。
もちもち食感を生み出す全粒粉と卵
ビーゴリのもう一つの魅力は、その力強いもちもちとした食感です。 この食感を生み出すために、生地の材料にもこだわりがあります。伝統的には、そば粉が使われることもありましたが、現在では全粒小麦粉を使うのが一般的です。 全粒粉は、小麦の表皮や胚芽も丸ごと挽いたもので、豊かな風味と香ばしさ、そして独特の歯ごたえをパスタに与えてくれます。
さらに、生地には卵、特にアヒルの卵が使われることもありました。 卵を加えることで、生地にコシと弾力が生まれ、食べ応えのあるもちもちとした食感が実現します。 小麦粉と卵というシンプルな材料だからこそ、その配合や質がビーゴリの味わいを大きく左右するのです。
ソースがよく絡むザラザラの秘密
前述の通り、ビーゴリの表面のザラザラは、伝統的な製麺機「トルキオ」によって生み出されます。 生地をブロンズ製のダイスから強い圧力で押し出す際に生まれる摩擦が、表面に微細な傷をつけます。 この「傷」こそが、ソースを絡めるための重要な役割を果たしているのです。
つるつるとしたパスタではソースが滑ってしまいがちですが、ビーゴリならソースの旨味を余すところなく麺にまとわせることができます。 濃厚な肉のラグーソースや、シンプルなオイルベースのソースでも、ビーゴリの表面がしっかりとソースを受け止め、最後の一口まで美味しくいただくことができるのです。
ビーゴリを使った代表的な料理
独特の食感と形状を持つビーゴリは、様々なソースと相性が良いですが、特にヴェネト州の伝統的な料理でその真価を発揮します。ここでは、ビーゴリを使った代表的な料理を3つご紹介します。
定番中の定番「イカ墨のソース」
水の都ヴェネツィアを擁するヴェネト州ならではの組み合わせが、イカ墨(ネーロ・ディ・セッピア)のソースです。濃厚で磯の香り豊かなイカ墨ソースは、ビーゴリのザラザラした表面によく絡み、見た目にもインパクトのある一皿になります。
イカの旨味が凝縮されたソースと、もちもちとしたビーゴリの食感のコントラストは絶妙です。イカの身を加えたり、トマトを少し加えて酸味をプラスしたりと、バリエーションも楽しめます。ヴェネツィアのレストランでは定番のメニューなので、訪れた際にはぜひ試してみてください。
アンチョビと玉ねぎの「サルサソース」
「ビーゴリ・イン・サルサ(Bigoli in Salsa)」は、ヴェネト州の最も伝統的で代表的なビーゴリ料理の一つです。 「サルサ」といっても、メキシコ料理のサルサとは異なり、ここではアンチョビと玉ねぎをじっくり炒めて作るシンプルなソースを指します。
元々は、肉食が禁じられていたカトリックの四旬節などに食べられていた保存食を活用した料理でした。 玉ねぎを甘みが出るまでじっくりと炒め、そこに塩漬けのアンチョビを加えて溶かすように煮詰めます。 シンプルながらも、玉ねぎの甘みとアンチョビの塩気と旨味が凝縮されたソースは、ビーゴリとの相性も抜群です。
鴨肉を使った濃厚ラグーソース
内陸部では、鴨肉を使ったラグーソースも定番です。 「ビーゴリ・コン・ラーナトラ(Bigoli con l’anatra)」と呼ばれ、じっくりと煮込まれた鴨肉の濃厚な旨味が、力強いビーゴリの麺によく合います。
鴨肉を香味野菜などと一緒に赤ワインで煮込み、ほろほろになるまで火を通したラグーソースは、まさに絶品。仕上げにパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりかければ、より一層風味豊かになります。鴨肉のほかにも、ロバ肉やウサギ、イノシシなど、様々な肉を使ったラグーソースで楽しまれています。
家庭で楽しむビーゴリのレシピ
レストランで食べるビーゴリも格別ですが、ご家庭でもその美味しさを楽しむことができます。ここでは、基本的な生地の作り方から、手軽な代替案、ソースのアイデアまでご紹介します。
基本のビーゴリ生地の作り方
本格的なビーゴリ作りに挑戦したい方は、ぜひ生地から手作りしてみてください。トルキオがなくても、麺棒で伸ばして太めに切ることで、手打ちならではの食感を楽しむことができます。
材料は、強力粉や全粒粉、卵、塩、オリーブオイルなど、比較的シンプルなものです。 ポイントは、生地をしっかりとこねてグルテンを引き出し、コシのある生地を作ることです。生地をまとめたら、乾燥しないようにラップをしてしばらく休ませることで、より扱いやすくなります。生地作りの工程も、週末などに家族で楽しむのも良いかもしれません。
手軽に作れるビーゴリ風パスタ
「生地から作るのは少し大変…」という方でも大丈夫です。市販の乾燥ビーゴリや生ビーゴリを使えば、手軽に本格的な味を楽しめます。 日本でも、輸入食材店やオンラインストアなどで手に入れることができます。
もしビーゴリが手に入らない場合は、太めのスパゲッティ(スパゲットーニ)や、中心に穴のあいたブカティーニで代用するのも一つの方法です。食感は異なりますが、濃厚なソースと合わせることで、ビーゴリ料理の雰囲気を味わうことができます。
ビーゴリに合わせたいソースのアイデア
ビーゴリは、ご紹介した伝統的なソース以外にも、様々なソースと相性抜群です。例えば、濃厚なクリームソースや、ゴルゴンゾーラなどのブルーチーズを使ったソースもおすすめです。きのこをたっぷり使ったクリームソースや、和風にアレンジしてきのこの醤油バターソースなども意外な組み合わせで美味しいかもしれません。
また、シンプルなトマトソースに、パンチェッタやベーコンを加えて旨味をプラスするのも良いでしょう。 ビーゴリの力強い食感は、具材がゴロゴロと入ったソースにも負けません。ぜひ、ご自身の好きな食材や味付けで、オリジナルのビーゴリ料理を創作してみてください。
日本でビーゴリを味わうには?
ビーゴリの魅力が分かってきたところで、実際にどこで食べたり、手に入れたりできるのか気になりますよね。日本でビーゴリを体験する方法をご紹介します。
ビーゴリが食べられる日本のイタリアンレストラン
近年、日本でも本格的なイタリアの郷土料理を提供するレストランが増えてきました。特に、シェフが手打ちパスタにこだわっているお店では、メニューにビーゴリを見かけることがあります。
「ビーゴリ」や「ヴェネト州の料理」などをキーワードに、お近くのイタリアンレストランを探してみるのがおすすめです。自家製のトルキオを使ってビーゴリを打っているこだわりのレストランもあり、本場の味を堪能できるでしょう。 特別な日のディナーなどに、訪れてみてはいかがでしょうか。
通販で購入できるビーゴリ
ご家庭でビーゴリを楽しみたい場合は、オンライン通販を利用するのが最も手軽な方法です。大手の通販サイトや輸入食材専門店のオンラインショップで、「ビーゴリ」と検索すると、乾燥パスタや生パスタが見つかります。
様々なブランドから販売されているので、太さや原材料などを比較してお好みのものを選んでみてください。乾燥ビーゴリなら長期保存も可能です。 お気に入りのビーゴリを見つけて、ストックしておくのも良いでしょう。
購入する際の選び方のポイント
ビーゴリを初めて購入する際は、いくつかポイントがあります。まず、伝統的な製法に近いものを選びたいなら、原材料に「全粒粉」が使われているか、そして「ブロンズダイス」で成形されているかを確認すると良いでしょう。パッケージに記載されていることが多いです。
また、太さも様々なので、最初は標準的な2.5mm〜3mm程度のものから試してみるのがおすすめです。合わせたいソースによって太さを変えてみるのも、パスタ上級者の楽しみ方です。生パスタと乾燥パスタでは食感も異なるので、両方を試して好みのタイプを見つけるのも楽しいですね。
まとめ:ビーゴリの魅力を再発見
この記事では、イタリア・ヴェネト州の伝統的なパスタ「ビーゴリ」について、その歴史や特徴、美味しい食べ方などを詳しくご紹介しました。太くて力強い麺、もちもちとした食感、そしてソースがよく絡むザラザラの表面は、一度食べたら忘れられない魅力を持っています。
イカ墨やアンチョビ、鴨のラグーといった伝統的なソースはもちろん、様々なアレンジで楽しめるのもビーゴリの懐の深さです。 日本でも、こだわりのレストランで味わったり、通販で購入して家庭で楽しんだりすることができます。この記事を参考に、ぜひ奥深いビーゴリの世界を体験してみてください。
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