パスタやマカロニの原料として知られる「デュラム小麦」。独特のコシと風味があり、私たちの食生活に欠かせない存在です。しかし、「普通の小麦と違うなら、小麦アレルギーでも食べられるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。結論から言うと、デュラム小麦も小麦の一種であり、小麦アレルギーの方は摂取を避ける必要があります。
この記事では、デュラム小麦と普通の小麦のアレルギーにおける違い、具体的な症状、そしてデュラム小麦を含む食品や注意点について、やさしく解説していきます。また、アレルギーと上手に付き合っていくための代替食品やグルテンフリー製品の選び方にも触れていきますので、ご自身やご家族に小麦アレルギーの心配がある方は、ぜひ参考にしてください。正しい知識を身につけ、安心して食生活を楽しみましょう。
デュラム小麦のアレルギーとは?普通の小麦との違い

パスタなどでおなじみのデュラム小麦ですが、アレルギーの観点から見ると、パンやうどんに使われる普通の小麦と何が違うのでしょうか。まずは、デュラム小麦そのものの特徴と、小麦アレルギーの基本的な仕組みから見ていきましょう。
デュラム小麦ってどんな小麦?
デュラム小麦は、小麦の中でも特に硬い「硬質小麦」に分類されます。 地中海沿岸などで栽培され、日本では主にカナダから輸入されています。
デュラム小麦の主な特徴
- 硬さ: 胚乳部(粉になる部分)が非常に硬い。
- 色: カロチノイド色素を多く含むため、黄色みを帯びています。パスタが黄色いのはこのためです。
- タンパク質: 良質なタンパク質を多く含み、特に弾力性のある「グルテン」を豊富に形成します。
このグルテンの性質が、パスタ特有のシコシコとした歯ごたえ(アルデンテ)を生み出します。 デュラム小麦を粗挽きにしたものが「セモリナ」と呼ばれ、パスタやクスクスの主な原料として使われています。
小麦アレルギーの基本的なメカニズム
小麦アレルギーは、小麦に含まれる特定のタンパク質を、体が「異物」と認識してしまうことで起こる免疫反応です。原因となる主なタンパク質は、「グリアジン」と「グルテニン」で、これらが水と結びついてできるのが「グルテン」です。
アレルギーを持つ人が小麦を食べると、免疫システムが過剰に反応し、ヒスタミンなどの化学物質を放出します。これが、じんましんやかゆみ、腹痛、呼吸困難といった様々なアレルギー症状を引き起こすのです。 小麦アレルギーは乳幼児に多く見られますが、大人になってから発症するケースもあります。
デュラム小麦と普通小麦のアレルゲンの違いは?
デュラム小麦は、普通小麦と比較してタンパク質の含有量や質に違いはありますが、アレルギーの主な原因となる「グルテン」を構成するタンパク質を含んでいる点は同じです。 そのため、小麦アレルギーを持つ人がデュラム小麦を食べると、同様にアレルギー症状が誘発される可能性が非常に高いのです。
かつては「小麦アレルギーでも、デュラム小麦が原料のパスタなら大丈夫」と言われることもあったようですが、現在ではパスタの摂取量が増えたことなどから、パスタでもアレルギー症状を起こす例が報告されています。 自己判断で食べることは絶対に避け、必ず医師の指示に従ってください。
デュラム小麦アレルギーで起こる主な症状

デュラム小麦を含む食品を食べてアレルギー反応が起こると、体の様々な部分に症状があらわれます。症状の出方や重さには個人差がありますが、主に皮膚、呼吸器、消化器系に見られます。多くは食後2時間以内に症状が現れる「即時型」です。
皮膚にあらわれる症状(じんましん、かゆみなど)
皮膚症状は、食物アレルギーで最もよく見られる反応の一つです。
- じんましん: 皮膚の一部が赤く盛り上がり、強いかゆみを伴います。蚊に刺されたような膨疹(ぼうしん)が体のあちこちに出現し、数時間で消えることが多いのが特徴です。
- 赤み・発疹: 皮膚が赤くなったり、湿疹のようなブツブツが出たりします。
- かゆみ: 全身または体の一部に、強いかゆみを感じることがあります。
- 血管浮腫(ふしゅ): 皮膚の深い部分が腫れる症状で、特にまぶたや唇にあらわれやすいです。かゆみはあまりなく、数日かけてゆっくりと引いていきます。
これらの症状は、アレルギー反応によって皮膚の血管から水分が漏れ出すことで起こります。
呼吸器系にあらわれる症状(くしゃみ、咳、息苦しさなど)
呼吸器系の症状は、時に深刻な状態につながる可能性があるため特に注意が必要です。
- くしゃみ・鼻水・鼻づまり: アレルギー性鼻炎のような症状が出ます。
- 咳・喘鳴(ぜんめい): 咳が止まらなくなったり、呼吸する時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がしたりします。これは気道が狭くなっているサインです。
- 息苦しさ・呼吸困難: のどが締め付けられるような感覚や、息が吸いにくい、吐きにくいといった状態です。
- 声のかすれ: のどの粘膜が腫れることで声が出しにくくなることもあります。
これらの症状は、気道にアレルギー反応が起こり、粘膜が腫れたり、気管支が収縮したりすることで引き起こされます。
消化器系にあらわれる症状(腹痛、下痢、嘔吐など)
消化器系の症状は、アレルゲンが直接、胃や腸の粘膜を刺激することで起こります。
- 腹痛: お腹がキリキリと痛んだり、差し込むような強い痛みを感じたりします。
- 吐き気・嘔吐: 食べたものを繰り返し吐いてしまうことがあります。
- 下痢: 水のような便が出たり、頻繁に便意をもよおしたりします。
- 口の中の違和感: 口の中がかゆくなったり、イガイガしたり、唇が腫れたりすることもあります。
これらの症状は他の病気と見分けがつきにくいこともありますが、特定の食品を食べた後に繰り返し起こる場合は、食物アレルギーが疑われます。
アナフィラキシーショックの危険性
アナフィラキシーは、複数の臓器に同時に激しいアレルギー症状があらわれる、極めて危険な状態です。 皮膚症状、呼吸器症状、消化器症状などが同時に、あるいは急速に進行します。
さらに、血圧が低下し、意識がもうろうとするなど、生命に危険が及ぶ状態を「アナフィラキシーショック」と呼びます。
アナフィラキシーの主な症状
- 全身のじんましん
- 呼吸困難、声のかすれ
- 激しい腹痛、嘔吐
- 意識の低下、ぐったりする
- 血圧低下
アナフィラキシーが疑われる場合は、一刻も早く救急車を呼び、適切な処置を受ける必要があります。特に、小麦は「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」の原因として最も多い食品です。 これは、原因となる食物を食べただけでは症状が出ず、その後に運動が加わることでアナフィラキシーが誘発される特殊なタイプのアレルギーです。
デュラム小麦を含む意外な食品と注意点
デュラム小麦と聞いて多くの人が思い浮かべるのはパスタですが、実はそれ以外にも様々な食品に使われています。小麦アレルギーの方が安全な食生活を送るためには、どのような食品に注意すべきかを知り、原材料表示を正しく確認することが不可欠です。
パスタやクスクスだけじゃない!デュラム小麦が使われる食品
デュラム小麦(セモリナ)は、その特性から以下のような食品に広く利用されています。
| 食品カテゴリ | 具体的な食品例 |
|---|---|
| 麺類 | スパゲッティ、マカロニ、ペンネ、フェットチーネ、ラザニアなど |
| 粒状の製品 | クスクス(北アフリカや中東で主食とされる粒状のパスタ) |
| パン類 | 一部のイタリアパン(フォカッチャなど)、セモリナパン |
| 菓子類 | 一部の焼き菓子、シリアル |
| その他 | ピザ生地、スープのとろみ付けなど |
特に、パスタ類はほぼ全ての製品でデュラム小麦のセモリナが主原料です。 また、イタリアなどではパンの原料としても使われることがあります。 日本ではあまり馴染みがありませんが、海外の製品や輸入食品店などで見かける可能性があります。思いがけない食品に含まれていることもあるため、初めて食べる加工食品には注意が必要です。
加工食品の原材料表示を確認するポイント
日本の食品表示法では、小麦はアレルギー症状を引き起こす可能性が高い「特定原材料」8品目の一つに指定されており、製品に含まれる場合は表示が義務付けられています。
食品を購入する際は、必ずパッケージ裏面の「原材料名」の欄を確認しましょう。
チェックするべき表示例
- 「小麦」: 最も一般的な表示です。
- 「デュラム小麦」「デュラム小麦のセモリナ」: デュラム小麦が使われていることが明確にわかります。
- 「パスタ」「マカロニ」: 原材料としてこれらの名前が記載されている場合、デュラム小麦を含んでいる可能性が非常に高いです。
外食時に気をつけるべきこと
外食は、アレルギーを持つ方にとって特に注意が必要な場面です。
- 注文前に必ず店員に確認する: アレルギーがあることを明確に伝え、使用されている食材について詳しく確認しましょう。メニューに記載がなくても、ソースのとろみ付けや揚げ物の衣、つなぎなどに小麦粉が使われていることがあります。
- パスタ専門店やイタリアンレストラン: パスタがメインの店では、デュラム小麦を避けることは困難です。米粉を使ったグルテンフリーパスタなどを提供している店を選ぶとよいでしょう。
- 調理器具の共有に注意: アレルギー対応を謳っているレストランでも、調理器具や油が他のメニューと共有されている場合があります。症状が重い場合は、調理環境についても確認することが重要です。
最近では、アレルギー表示に積極的に取り組む飲食店や、アレルギー対応メニューを用意しているお店も増えています。事前にインターネットでお店の情報を調べたり、電話で問い合わせたりしておくと、より安心して食事を楽しむことができます。
もしかして?と思ったら。検査と診断について

「パスタを食べた後にじんましんが出た」「特定のパンを食べるとお腹が痛くなる」など、特定の食品を食べた後に体調不良が続く場合、食物アレルギーの可能性があります。自己判断で原因を決めつけたり、やみくもに食事制限をしたりするのは危険です。気になる症状があれば、必ず専門の医療機関を受診しましょう。
アレルギー専門医への相談
食物アレルギーが疑われる場合、まずはアレルギー科、皮膚科、小児科などの専門医に相談することが第一歩です。
受診する際には、以下のような情報をメモして持っていくと、医師が診断する上で非常に役立ちます。
いつ: 症状はいつ頃から始まったか。
何を: 原因と思われる食品と、その時の食事内容全体。
どれくらい: 原因と思われる食品を食べた量。
いつまでに: 食べてからどれくらいの時間で症状が出たか。
どんな症状が: じんましん、咳、腹痛など、具体的な症状。
どうなったか: 症状はどれくらい続いたか、薬は飲んだか。
これらの詳細な情報が、正確な診断への近道となります。特に、食べたものと症状の関係を記録した「食事日記」は非常に有効です。
主なアレルギー検査の種類(血液検査、皮膚テストなど)
医師は、問診で得た情報をもとに、必要に応じてアレルギー検査を行います。これにより、アレルギーの原因となっている物質(アレルゲン)を特定していきます。
- 血液検査(特異的IgE抗体検査):
採血をして、特定のアレルゲンに対して体内で作られる「IgE抗体」の量を測定する検査です。 デュラム小麦を含む「小麦」や、小麦の主要なタンパク質である「グルテン」、さらに詳細な原因物質を調べる「ω-5グリアジン」などの項目があります。 数値が高いほどアレルギーの可能性が高いとされますが、数値だけで診断が確定するわけではありません。 - 皮膚プリックテスト:
アレルゲンを含む液体を皮膚(主に腕)に一滴垂らし、専用の針で軽く傷をつけて反応を見る検査です。15〜20分後に、蚊に刺されたように赤く腫れた場合(膨疹)、陽性と判断されます。血液検査よりも早く結果がわかるのが特徴です。
これらの検査はあくまで診断の補助的なものであり、検査結果が陽性でも症状が出ない場合や、逆に陰性でも症状が出る場合があります。
食物経口負荷試験の重要性
食物アレルギーの診断において、最も確実で信頼性の高い検査が「食物経口負荷試験」です。
これは、専門医の管理のもとで、原因と疑われる食品を実際に少量から段階的に食べてみて、症状が出るかどうかを確認する検査です。アレルギー症状が出た場合に備え、すぐに対応できる体制が整った医療機関で行われます。
この検査により、
- 本当にその食品が原因でアレルギーが起きるのか
- どのくらいの量までなら安全に食べられるのか
を正確に判断することができます。これにより、不必要な食事制限を避け、食べられる範囲を広げることが可能になります。危険を伴う検査のため、必ず医師の指示のもとで行う必要があります。自己判断で試すことは絶対にやめましょう。
デュラム小麦アレルギーと上手に付き合う食生活
デュラム小麦を含む小麦製品が食べられないとなると、食生活が大きく制限されるように感じるかもしれません。しかし、現在では様々な代替食品やグルテンフリー製品が登場しており、工夫次第で豊かで美味しい食生活を送ることが可能です。アレルギーと上手に付き合い、食事を楽しむためのヒントをご紹介します。
デュラム小麦の代替となる食品(米粉、とうもろこし粉など)
パスタやパンが食べたくなった時、小麦粉の代わりになる様々な穀物の粉があります。これらを活用することで、料理のレパートリーがぐっと広がります。
- 米粉:
お米から作られた粉で、パンや麺、お菓子作りなど幅広く使えます。米粉で作ったパスタは、もちもちとした食感が特徴です。 醤油との相性も良く、和風パスタなどにもよく合います。 - とうもろこし粉(コーンフラワー):
とうもろこしが原料で、ほんのりとした甘みがあります。米粉とブレンドすることで、より小麦のパスタに近い食感や見た目になる製品もあります。 - 雑穀(ひえ、あわ、きびなど):
これらの雑穀から作られた麺も市販されています。それぞれに風味や食感の特徴があり、新しい美味しさを発見できます。 - 豆類(ひよこ豆、えんどう豆など):
近年、豆類を原料としたパスタも注目されています。タンパク質や食物繊維が豊富で、栄養価が高いのが魅力です。
これらの代替品は、アレルギー専門のオンラインストアや、スーパーのグルテンフリーコーナーなどで手に入れることができます。
グルテンフリー製品の選び方と注意点
「グルテンフリー」とは、小麦などに含まれるタンパク質「グルテン」を含まない食品のことです。 小麦アレルギーの人にとって心強い選択肢ですが、選ぶ際にはいくつか注意点があります。
- 原材料を必ず確認: グルテンフリー製品の中には、小麦アレルギーの原因となりうる他の成分(大麦やライ麦など)を含んでいる場合があります。必ず原材料表示を確認しましょう。
- コンタミネーションの確認: グルテンフリー認証を受けている製品でも、小麦製品と同じ工場で製造されている場合があります。 パッケージの注意書きをよく読み、ご自身の症状の程度に合わせて選ぶことが大切です。
- 栄養バランスを考える: 小麦製品を避けることで、特定の栄養素が不足しがちになることもあります。米や雑穀、野菜、肉、魚などをバランスよく取り入れ、栄養が偏らないように心がけましょう。
アレルギー対応レシピの紹介
代替食品を使えば、家庭でも美味しいアレルギー対応料理を作ることができます。ここでは、米粉を使った簡単なパスタレシピをご紹介します。
【米粉麺を使った和風きのこパスタ】
材料(1人分)
- 米粉パスタ麺: 80g
- お好みのきのこ(しめじ、舞茸など): 50g
- ベーコン(またはツナ缶): 20g
- にんにく(みじん切り): 小さじ1/2
- オリーブオイル: 大さじ1
- 醤油: 大さじ1
- 塩、こしょう: 少々
- 刻みねぎ、刻みのり: お好みで
作り方
- きのこは石づきを取り、ほぐしておく。ベーコンは1cm幅に切る。
- 鍋にたっぷりのお湯を沸かし、米粉パスタ麺を表示時間通りに茹でる。
- フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れて弱火で熱し、香りが出てきたらベーコンときのこを加えて炒める。
- きのこがしんなりしたら、茹で上がったパスタの茹で汁を少量(大さじ2程度)加えて混ぜ、醤油、塩、こしょうで味を調える。
- 茹で上がって湯切りしたパスタをフライパンに加え、ソースと手早く絡める。
- お皿に盛り付け、お好みで刻みねぎや刻みのりを散らして完成。
このように、いつものレシピの小麦製品を代替品に置き換えるだけで、簡単で美味しいアレルギー対応メニューが楽しめます。
まとめ:デュラム小麦アレルギーの知識を深め、安全な食生活を

この記事では、デュラム小麦とアレルギーの関係について詳しく解説してきました。最後に、大切なポイントを振り返ってみましょう。
- デュラム小麦は小麦の一種: パスタなどに使われるデュラム小麦は、パン用の小麦と種類は異なりますが、アレルギーの原因となるタンパク質(グルテン)を含んでいます。
- 小麦アレルギーの人は食べられない: そのため、小麦アレルギーの人がデュラム小麦を食べると、同様にアレルギー症状を引き起こす可能性が非常に高いです。 自己判断で食べるのは絶対にやめましょう。
- 症状は様々: 症状はじんましんなどの皮膚症状から、咳や腹痛、そして重篤なアナフィラキシーショックまで多岐にわたります。
- 表示の確認と情報伝達が重要: 加工食品を購入する際は原材料表示を必ず確認し、外食時はアレルギーがあることを明確に伝えることが身を守るために不可欠です。
- 専門医への相談: アレルギーが疑われる場合は、必ず専門医に相談し、正しい検査と診断を受けることが重要です。
- 代替品で食生活は豊かになる: 米粉やとうもろこし粉など、代替となる食品は数多くあります。 これらを上手に活用することで、安全で美味しい食事を楽しむことができます。
デュラム小麦に関する正しい知識を持つことは、誤食を防ぎ、安心して日々を過ごすための第一歩です。ご自身やご家族にアレルギーがある場合でも、様々な工夫で食の楽しみを広げることは可能です。この記事が、その一助となれば幸いです。



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