外はサクサク、中はしっとり。紅茶やコーヒーと一緒にお気に入りのジャムやクリームを添えていただくスコーンは、おうちカフェの時間を豊かにしてくれます。そんな美味しいスコーン作りですが、「バターの使い方がいまいち分からない」「レシピ通りに作ってもパサパサになってしまう」といった悩みはありませんか?実は、スコーンの美味しさを左右する重要な要素のひとつが「バター」なのです。
この記事では、スコーン作りにおけるバターの役割から、種類や選び方、そして上手に扱うためのコツまで、初心者の方にも分かりやすく徹底的に解説します。バターが持つ性質を理解すれば、あなたのスコーンはもっと美味しくなるはずです。さらに、バターがない時に役立つ代用アイデアもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
スコーン作りでバターが果たす重要な役割
スコーン作りにおいて、バターは単なる材料の一つではありません。その独特の食感と豊かな風味を生み出すために、欠かせない役割を担っています。バターがどのようにしてスコ-ンを美味しくするのか、その秘密に迫ってみましょう。
サクサク食感を生み出す「ショートニング性」
スコーンの魅力であるサクサクとした軽い食感は、バターが持つ「ショートニング性」という性質によって生まれます。ショートニング性とは、バターのような油脂が小麦粉のグルテンの形成を妨げる働きのことです。
小麦粉に水分を加えてこねると、グルテンという網目状の組織が形成され、これが生地の粘りや弾力の元になります。 パン作りではこのグルテンが重要ですが、スコーンの場合はグルテンが過剰に形成されると、サクサクではなく硬い食感になってしまいます。
ここで活躍するのがバターです。冷たいバターを粉類と混ぜ合わせることで、バターの油脂が小麦粉の粒子をコーティングします。 このコーティングによって、水分が小麦粉に過剰に吸収されるのを防ぎ、グルテンの網目構造が発達しすぎるのを抑えることができるのです。 結果として、焼き上がった時にサクッ、ホロッと崩れるような、心地よい食感が生まれます。
豊かな風味とコクを与える
スコーンを口に入れた瞬間に広がる、芳醇な香り。これもバターがもたらす大きな魅力です。 バターは乳脂肪から作られているため、加熱されることで特有の甘く香ばしい風味を生み出します。 この豊かな香りが、スコーンの素朴な味わいに深みとコクを加えてくれるのです。
特に、焼き立てのスコーンから立ち上るバターの香りは格別で、食欲をそそります。 使用するバターの種類によっても風味は異なり、例えば発酵バターを使えば、より複雑で奥行きのある味わいを楽しむことができます。 バターは、スコーンの美味しさを決定づける重要な要素であり、その風味とコクは他の油脂ではなかなか再現できないものです。良質なバターを選ぶことが、美味しいスコーンへの第一歩と言えるでしょう。
層を作る「クリーミング性」の秘密
スコーンが横に割れて「腹割れ(狼の口)」と呼ばれるきれいな層ができるのも、バターの働きが関係しています。これはバターの「クリーミング性」という、空気を抱き込む性質によるものです。
生地を作る際、冷たい固形のバターを粉類に切り混ぜていきます。この時、バターの粒は完全には溶けず、小さな塊として生地の中に点在します。 この生地をオーブンで焼くと、バターが溶けて水分が蒸発します。その蒸気の力で生地が持ち上げられ、バターがあった部分が空洞になることで、きれいな層が生まれるのです。
この層が、外はサクサク、中はふんわりとしたスコーン特有の食感を作り出します。バターを溶かさずに冷たいまま使うのは、このきれいな層を作るために非常に重要なポイントなのです。 バターを練り込まず、粒を残すように混ぜることで、理想的なスコーンの食感が得られます。
美味しいスコーンはバター選びから!種類と特徴
スコーン作りで使うバターには、主に「無塩バター」「有塩バター」「発酵バター」の3種類があります。 それぞれに特徴があり、どれを選ぶかによってスコーンの仕上がりが変わってきます。自分の作りたいスコーンのイメージに合わせて、最適なバターを選びましょう。
基本は「無塩バター」がおすすめな理由
お菓子作りのレシピで一般的に「バター」と書かれている場合、それは「無塩バター」を指すことがほとんどです。 無塩バターは、製造過程で食塩を加えていないバターのことです(ただし、原料の生乳に由来する微量の塩分は含まれています)。
スコーン作りに無塩バターがおすすめされる最大の理由は、塩分量を自分で調整できる点にあります。 スコーンのレシピには、生地の味を引き締めるために少量の塩を加えることが多くあります。無塩バターを使えば、レシピに記載されている通りの塩を加えるだけで、意図した通りの塩加減に仕上げることができます。素材の純粋な風味を活かし、繊細な味わいを表現したい場合に特に適しています。
「有塩バター」で作るとどうなる?
有塩バターは、製造過程で1.5%程度の食塩が加えられているバターです。 家庭でパンに塗ったり料理に使ったりと、常備していることが多いのはこちらのタイプかもしれません。
有塩バターをスコーン作りに使うことも可能です。 バター自体に塩味が付いているため、生地に加える塩の量を減らすか、あるいは省略する必要があります。 有塩バターを使うと、無塩バターを使った場合に比べて、よりはっきりとした塩気とコクを感じられる仕上がりになります。甘さとしょっぱさのコントラストを楽しみたい場合や、チーズやベーコンなどを加えるセイボリースコーン(甘くないスコーン)を作る際には、有塩バターがよく合います。
ただし、有塩バターは製品によって塩分量が異なるため、レシピの塩を減らす際には調整が必要です。 初めて作るレシピの場合は、まず無塩バターで試してみて、味の基準を確かめてから有塩バターでアレンジしてみるのが良いでしょう。
「発酵バター」でワンランク上の味わいに
発酵バターは、バターの原料となるクリームを乳酸菌で発酵させてから作るバターです。 ヨーグルトのような特有の爽やかな酸味と、芳醇で深い香りが特徴で、ヨーロッパでは古くから作られてきました。
スコーンに発酵バターを使うと、その豊かな香りとコクが加わり、ぐっとプロのような本格的な味わいに仕上がります。 バターの風味が主役となるシンプルなプレーンスコーンなどに使うと、その違いがよく分かります。 いつものスコーンを少し贅沢に、ワンランク上の美味しさにしたい時にぜひ試してみてください。 スーパーのバター売り場でも手に入りやすくなっていますが、価格は無塩バターや有塩バターに比べて少し高価なことが多いです。
スコーン作りにおけるバターの扱い方【基本のコツ】
美味しいスコーンを作るためには、バターをどのように扱うかが非常に重要です。特にバターの温度管理と混ぜ方が、食感を左右する大きなポイントになります。ここでは、スコーン作りの基本となるバターの扱い方のコツをご紹介します。
バターはなぜ冷たいまま使うの?
多くのスコーンのレシピで「バターは冷たいものを使う」と指示されているのには、明確な理由があります。 主な理由は、小麦粉のグルテンの生成を抑え、サクサクの食感を生み出すためです。
バターが溶けて液体状になると、小麦粉と混ざりやすくなり、グルテンが多く生成されてしまいます。 グルテンが増えると、スコーンはサクサクではなく、硬く粘りのある食感になってしまいます。 そのため、バターは使う直前まで冷蔵庫でしっかりと冷やしておくことが大切です。
さらに、冷たい固形のバターが生地の中に粒状で残っていることで、焼成中にバターが溶けて蒸気となり、生地の間に層ができます。 この層が、スコーン特有の「腹割れ」や、ホロリとした食感につながるのです。 生地をこねている間にバターが溶けてだれてきたと感じたら、一度冷蔵庫で生地を休ませて冷やすと良いでしょう。
バターの切り方と混ぜ込み方
スコーン作りでは、バターをいかに粉類と混ぜ合わせるかが重要です。この工程を「サブラージュ」と呼び、砂(サーブル)のようにサラサラの状態にすることを目指します。
まず、よく冷やしたバターを1cm角程度のサイコロ状にカットします。 これを粉類(薄力粉、ベーキングパウダーなど)を入れたボウルに加えます。
次に、スケッパー(カード)やフォークを使って、バターを細かく切り刻むように粉と混ぜていきます。 バターに粉をまぶしながら切っていくイメージです。 バターの塊が小豆粒くらいの大きさになったら、今度は両手を使って、手のひらですり合わせるようにしてバターと粉をなじませていきます。 この時、手の熱でバターが溶けないよう、手早く行うのがコツです。最終的に、全体が粉チーズのように黄色っぽく、サラサラの状態になれば完了です。
フードプロセッサーを使う場合の注意点
手作業でのサブラージュが大変だと感じる場合は、フードプロセッサーを使うと簡単かつスピーディーに行うことができます。
フードプロセッサーに粉類と、冷やして角切りにしたバターを入れ、数秒ずつ小刻みに攪拌します。回しすぎるとバターが溶けたり、細かくなりすぎたりするので注意が必要です。スイッチを断続的に「オン・オフ」を繰り返す「パルス運転」で行うのがポイントです。
全体がサラサラの粉チーズ状になったら止めます。 フードプロセッサーは非常に便利ですが、攪拌しすぎると摩擦熱でバターが溶けてしまう可能性があります。あくまで手早く、バターの粒が少し残る程度に留めるのが、美味しいスコーンを作るためのコツです。
バターがない時に!スコーンの代用アイデア
スコーンを作りたいのにバターを切らしてしまっていた、ということはありませんか?あるいは、バターを使わずに、もっと手軽に作りたいと思うこともあるでしょう。そんな時に役立つ、バターの代用品を使ったスコーンのアイデアをご紹介します。食感や風味に違いは出ますが、それぞれに美味しいスコーンが作れます。
マーガリンで代用する場合の注意点
バターの代用品として最も身近なのがマーガリンです。 マーガリンは植物性油脂を主原料としているため、バター(動物性脂肪)とは風味が異なりますが、スコーン作りに使用することは可能です。
マーガリンで代用する場合、バターを使った時よりもあっさりとした、軽い食感に仕上がることが多いです。 バター特有の豊かな風味やコクは弱まりますが、サクッとした食感は得られます。
使用する際の注意点として、マーガリンはバターよりも水分量が多く、柔らかい製品が多いことが挙げられます。 そのため、レシピによっては生地が少しべたつきやすくなる可能性があります。また、マーガリンには有塩タイプと無塩(製菓用)タイプがあるので、有塩タイプを使う場合はレシピの塩の量を調整する必要があります。 できれば、バターに近い固さを持つ製菓用のマーガリンを選ぶと、より失敗が少なくなります。
サラダ油や米油などオイルで作るスコーン
バターやマーガリンのような固形の油脂ではなく、サラダ油や米油、太白ごま油といった液体のオイルでもスコーンを作ることができます。 オイルを使う最大のメリットは、バターを冷やしたり刻んだりする手間がなく、材料を混ぜるだけで簡単に生地が作れることです。
オイルで作るスコーンは、バター使用のものと比べて、ザクザクとしたクリスピーな食感や、ふんわりと軽い食感になる傾向があります。 バターの風味はありませんが、その分、小麦粉本来の味や、紅茶やココアなど加えるフレーバーの香りを楽しむことができます。
作り方はとてもシンプルで、粉類にオイルを加えてすり混ぜ、牛乳などの液体を加えてまとめるだけです。 バターのように生地を折りたたむ工程を丁寧にすると、層のある焼き上がりになります。 思い立ったらすぐに作れる手軽さが、オイルスコーンの魅力です。
生クリームやヨーグルトを使ったレシピ
バターの代わりに生クリームを使って作るスコーンも人気があります。 生クリームには乳脂肪分が豊富に含まれているため、バターを加えなくても、その脂肪分がバターの役割の一部を果たしてくれます。
生クリームで作るスコーンは、ミルキーで優しい味わいとしっとりとした食感が特徴です。 バターを使ったスコーンのサクッ、ホロッとした食感とはまた違った、柔らかな口当たりが楽しめます。作り方も非常に簡単で、粉類に生クリームを加えて混ぜ合わせるだけで生地が完成します。 バターを扱う手間がないため、初心者の方にもおすすめです。
また、ヨーグルトを加えるレシピもあります。 ヨーグルトの酸味が生地に加わることで、さっぱりとした風味としっとり感を出すことができます。 本来、スコーン作りで使われることのある「バターミルク」の代用としてヨーグルトが使われることもあり、ふんわりとした仕上がりになります。
【応用編】もっと美味しく!スコーンとバターの楽しみ方
基本のスコーンをマスターしたら、次はもっと美味しく楽しむための応用編です。スコーンに添える定番のクリームから、相性の良い組み合わせ、そしてバターの風味を活かした人気レシピまで、スコーンの世界をさらに広げるアイデアをご紹介します。
スコーンに添える絶品「クロテッドクリーム」とは
イギリス式のスコーンの食べ方で欠かせないのが「クロテッドクリーム」です。 クロテッドクリームは、イングランド南西部のデヴォン州やコーンウォール州が発祥とされる、非常に濃厚なクリームです。脂肪分の高い牛乳を蒸し煮にして、表面に固まった乳脂肪分(クラスト)を集めて作られます。
その味わいは、生クリームよりも濃厚で、バターよりも軽やか。バターと生クリームの中間のような、こっくりとしたコクとミルキーな風味が特徴です。 スコーンを横半分に割り、このクロテッドクリームとストロベリージャムをたっぷりと塗っていただくのが、本場の「クリームティー」のスタイルです。
ジャムを先に塗るか、クリームを先に塗るかという「デヴォン式・コーンウォール式論争」があるほど、イギリス人にとっては馴染み深い存在です。 このクリームがあるだけで、おうちのスコーンが本格的なティールームの味に格上げされます。
おすすめのバターとジャムの組み合わせ
スコーンの楽しみは、添えるものとの組み合わせによって無限に広がります。 バターの風味とジャムの甘酸っぱさは、まさに王道の組み合わせです。
例えば、シンプルなプレーンスコーンには、豊かな香りの発酵バターと、定番のストロベリージャムやラズベリージャムがよく合います。バターの塩気とジャムの甘さが絶妙なバランスです。
全粒粉を使った香ばしいスコーンなら、少し塩気のある有塩バターと、オレンジマーマレードのような柑橘系のジャムを合わせると、それぞれの風味が引き立ちます。また、アールグレイの茶葉を練り込んだ紅茶のスコーンには、爽やかなバターとアプリコットジャムの組み合わせもおすすめです。ぜひ、あなただけのお気に入りの「バター+ジャム」の組み合わせを見つけてみてください。
バター香るスコーンの人気レシピ紹介
バターの風味を存分に楽しむための、人気のアレンジスコーンレシピもたくさんあります。例えば、アメリカのカフェでよく見かける、三角形でゴツゴツとしたチョコレートチャンクスコーンは、バターとチョコレートの組み合わせがたまらない一品です。
また、生地にたっぷりのチーズを混ぜ込み、仕上げにバターを塗って焼き上げるチーズスコーンは、朝食やブランチにもぴったりです。甘くないセイボリースコーンなので、お食事系として楽しめます。
ホテルオークラの公式レシピのように、バターを常温で柔らかくしてから粉類と混ぜ合わせる作り方もあります。 この方法だと、バターと粉をすり混ぜる作業が楽で、リッチな風味のさくほろ食感に仕上がると言われています。 冷たいバターで作る方法との食感の違いを比べてみるのも面白いでしょう。
まとめ:美味しいスコーン作りは、バターを知ることから
この記事では、スコーン作りにおけるバターの重要性について、その役割から選び方、扱い方のコツ、そしてバターがない時の代用アイデアまで、幅広く解説してきました。
スコーンのサクサクとした食感や豊かな風味は、バターが持つ「ショートニング性」や「クリーミング性」といった性質によって生み出されています。 そして、使うバターの種類(無塩、有塩、発酵)によっても、仕上がるスコーンの味わいは変わってきます。 最も重要なのは、バターを冷たい状態で手早く扱い、生地の中で溶かしてしまわないことです。 この基本を守ることが、理想のスコーンへの近道となります。
もしバターがなくても、マーガリンやオイル、生クリームなどで代用することも可能です。 それぞれに違った美味しさが発見できるでしょう。バターについて深く知ることは、あなたのスコーン作りをより楽しく、そして間違いなくレベルアップさせてくれます。ぜひ、今回の内容を参考にして、あなただけの絶品スコーンを焼き上げてください。
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